サイエンスをやめるとき


 同僚のポスドクが一人、アカデミアの世界から去ることになった。研究室に来て3年、芳しい結果が出せず、夫婦でアカデミアの世界に居続けることはほぼ不可能(奥さんもアカデミアの世界で生きている。)と判断し、彼のほうが身を引くことにしたと。


 次の職は見つかったのかと聞くと、幸いにもすぐに見つかったとの事。2つの企業からオファーを受けていて、1つは初年度給与が約1200万円、もう一つは約2200万円。それは今の年収の何%増だっけ? と考えるのもばからしくなる。ラボで日常的に使っているXXやXXXなどの話をすれば、企業で職を得るなんて楽勝だったとのこと。そういうものか。しかも土日祝日は休みらしい。


 話すたびに違うことを言うので、実際の心中はどうなのか判らない。ただ、周りの同僚が派手に(某同僚)あるいは控えめに(potasiumch)結果を出しつつあるのを横目に、どれだけやっても結果が出ない状態*1が長く続けばどういう心境になるかは、とてもよく理解できる。イタリア人らしくあまりネガティブな感情は面に出さない(あるいは出しても長持ちしない)人だったけれど、ここ数ヶ月の様子は確かに少し違っていた。


 個人的には、アカデミアを目指すことは普通の人としての幸せを放棄することだと思っている。少なくとも金銭的・時間的には恵まれない状態でいることを覚悟しないといけない。それでも雇用は不安定で、常に世界中のライバル達との競争にさらされる。なぜそこまでしてアカデミアを目指し続けるのか? 好奇心? 使命感? あるいは意地? 惰性? 認知的不協和? 普通の社会に戻る同僚の話を聞いて、揺らがないといえばうそになる。


 ボスに話すと、とりあえず1年間は休職扱いにして、気が変わったら戻ってきたら良いと言われたという。そういう状態になるまで気づかずにいてすまなかったと。この辺の過程にはメンターとして参考になるところがあると思った。


 まあ、 新しい場所でも Good Luck ということで。


 

*1:基礎研究をやっている以上、そういうことは普通にありうる。