最初の言葉


 多くの言語圏で母親を表す言葉はなぜか共通して「ママ(mama, mamma)」かそれに類するもので、また赤ちゃんがしゃべる最初の言葉も多くの場合「ママ」だと言われている。Caltech出身の院生が紹介してくれた説によると、これらの不思議な(?)一致の原因は次のような経緯を考えるとうまく理解できるのではないかとのこと。つまり、

  1. 物理的・神経生理学的な制約上、ヒトの幼児が最初に出すのはそういう音である可能性が高い、かつ
  2. 言語獲得期における古代人類の大人たちは、甘えたがりの赤ちゃんが最初に伝達したいであろう情報は「お母さんが恋しい」に違いないと思ったので、赤ちゃんが出す最初の音を「母親」を表す言葉と(勝手に)解釈した。


そしてその親側の決め付けが一般に言葉の定義として広まったのではないか、とのこと。普遍的なのは言語音と概念の関連性ではなく、身体性と親の愛であると。


 この話に乗るとすると、同じ音を日本語では「食べ物(まんま)」と解釈するというのも結構味わい深い。つまり、多くの西洋人や中国人などの先祖たちは、あの愛しくも儚い小さな存在が最初に伝達したい内容は「愛をください」に決まっていると思い込んでいた。それに対し日本人の先祖たちは、もちろん奴らが最初に放つであろう魂の叫びは「飯くわせ」に決まっていると思い込んでいたと。


 どちらも古の親たちの赤ちゃんに対する愛を感じるけれど、日本式の方がやや実用的というか、よりフェールソフトであるとは言えるかもしれない(ちょっとぐらい愛がなくても死なないけど、食べないとわりとすぐ死ぬ)。母親と食べ物(母乳)はとても関連の高い事象なので、どちらと定義しても実質的には問題なしということかも。


 うちの子を見ていると、初期の発声に関してはそれが明確に意思伝達を意図したものであるかは怪しいと思う。でもこれに自分自身の心の動きを合わせて考えると、親側が勝手な解釈をしたという説には信憑性があるような気もする。もちろんあの「だーだだだー」というのは、大好きなお父さん(daddy)を呼ぼうとしているに決まっているのだ。