細胞の種類によって異なる注意の影響

Salk Institute / UC San Diego から John Reynolds さんが来たのでトークを聞きに行く。

http://www.snl-r.salk.edu/reynolds.GIF


 V4における視覚的注意による modulation のかかり方は細胞種によって異なる、しかも不思議なことに領野をまたがって情報を送るとされるクラスの細胞(pyramidal cellとか)ではあまり注意の影響は見られず、領野内で情報をやり取りするインターニューロンの方が注意の影響をより大きく受けていた、という話。


 基本的な流れは細胞外電位記録をやりながら視覚的注意が必要なタスクをやらせるというもので、視覚入力は同一でも注意の有無によって発火頻度なり 発火とLFP (local field potential) との同期具合が異なりますよね、という Desimone さん辺りがよくやるパラダイム


 新しいのは、スパイクの形状から Fast Spiking Interneuron とそれ以外を分けて、それぞれのクラスで attentional modulation の係り具合を見た、というところ。分ける基準は基本的にスパイクの時間幅(たぶんHWHH?)で、populationでヒストグラムを作ると200μsぐらいを境に bimodal な分布をしているので、とりあえず 200μs より短いのを暫定的にFS interneuron (narrow neuron)とみなし、それより長いの(Pyramidal cell とか Non-FSなinterneuronとか全部、broad neuron)と分けて解析したと。


発見した違いは:

  • narrow neuron の方が有意な attentional modulation がかかっている細胞の割合が多かった。(というか見たところ narrow neuron はほとんど全部 modulation がかかっていた)。また、broad neuron では注意依存でより発火が増強されるものもあれば逆に抑制されるものもあったけれど、narrow neuron は専ら注意依存で発火が増強されるものしか見つからなかった。
  • 発火の Trial-to-Trial なばらつき具合を Fano Factor として算出したところ、narrow neuron では注意が向けられているときにだけ大幅にばらつき具合が下がっていた。broad neuron ではそういう傾向は見られなかった。
  • LFP との coherence を調べたところ、narrow neuron では注意の有無に関わらず coherence が見られ、また注意のあるときはとくに Gamma band でより coherence が大きくなっていた。broad neuron では narrow neuron ほどは coherence は見られず、注意の有無による影響も見られなかった。


 まあ当然あるつっこみとしては、スパイク形状なんて電極との距離依存で相当ばらつくのだし、その細胞種の別け方はどのぐらい信用できるのか? という点。とくに vivo で awake ということで条件はきびしいし、burst してどんどん波形が変わって行ったりした場合どうするの? とか。
 これに関してはあんまり本人も100%自信のある風ではなかった。ただ実験屋の実感として、確かに細くて高発火頻度のやつというのは distinct なクラスとして存在すると思うので、100%ではないにしろ傾向を見るぐらいならいいのではないかと思う。

 (関連論文:Henze et al. 2000; Constantinidis and Goldman-Rakic 2002; Bartho et al. 2004


 あと一般的に narrow neuron の方が発火頻度が高い傾向が見られるので、統計的有意性の解析にはちょっと注意が必要かも。でも専ら注意による増強しか見られないという点は、発火頻度の相違だけでは説明できない。


 ちょっと意外なのは冒頭の通り(FS)インターニューロンと思われる narrow neuron の方がより強く注意の影響を受けていたという結果。まあ「それ以外」クラスでも注意の影響がある細胞はあるので、外に情報を送るやつはまた細かく分かれているということかな。さすがに注意の情報は渡したけどV4を出るときには消去されているとかいうことはないよな。


 今後の予定について。FS interneuron は特定の K+ チャネルを多く持っていることが知られているので、これを薬か何かで局所的に黙らせたりすることで注意の影響をより詳しく見ることが出来るのではないか、とのこと。


 面白かった。