方位コラム構造と選択性・種間比較・ネコの夢


 今週号の Neuron から。Ringach ラボと Carandini ラボの共同研究。


Neuronal Selectivity and Local Map Structure in Visual Cortex
Ian Nauhaus, Andrea Benucci, Matteo Carandini and Dario L. Ringach
Volume 57, Issue 5, 13 March 2008, Pages 673-679


 一次視覚野の方位選択性コラムと細胞単位の方位選択性との関係を調べました、種間比較もしました、という論文。Optical imaging と電極アレイによる記録。周辺の方位選択性が不均一である(つまり pinwheel 付近)ほど細胞レベルの方位選択性はゆるくなり、周辺が同方位のコラムで埋まっているほど選択性は鋭くなる、という結果。これまでも同趣旨の論文はいくつかあって結果が食い違ったりしていたのだけど、今回のが一応決定打となるのかな?


 過去の論文の問題点として指摘しているのは、電極1本だけを使っていたのでは正確に pinwheel に差せたのか怪しいものだ、とかカルシウムイメージングの結果なのでスパイクとの対応関係は必ずしも自明ではない、などのメソッド上のこと。今回は10 x 10 の電極アレイで記録したので Optical imaging の結果とのずれもちゃんと補正して(著者らの主張によると誤差30μm以内の精度で)調べられていて信頼できますよ、と。


 メインの主張はまあ良いとして、面白いのはサルとネコで種間比較をしているところ(Fig. 3)。周辺コラムの方位均一性と細胞単位の方位選択性の幅に負の相関があるというのはサルでもネコでも同じなのだけど、そのレンジは異なる(サルの方がコラ構造が細かく、選択性がゆるい)。でもデータを同じ図にプロットすると、レンジが違うだけで同じようなラインに乗る、と。つまり、種が何であれ、細胞の選択性の幅が例えば20度なら周辺の方位コラムの均一性を示す指標は0.5になる。


 で、今回はデータを取っていないけど、ネズミの場合でもたぶんこの関係は通用しているだろうと予想している。つまり、ネズミは方位選択コラムがない≒コラム幅が非常に小さいことが知られていて、実際彼らのストーリーの通り細胞単位の方位選択性はサルとネコよりも甘いことも報告されている。これらから、個別の細胞の選択性ともうちょっとマクロな機能構造との間には、種を超えた何らかの共通ルールがあることが示唆される、と。これはなかなかモデル作りの際に楽しそうな制約条件ではある。


 あと気になったのは、順列的には細胞単位の選択性の鋭さでいうと


ネコ > サル(多分ヒトも) > ネズミ


となっている。体の大きさや視力、視覚の優位性などとはうまく対応付けられない順序だと思うのだけど、どうしてこうなっているのだろう。単なる進化上の偶然なのだろうか?


 Fig. 3 を見て他に思ったこと、というか半分戯言。先日のKay et al. のマインドリーディングな Nature 論文との関連で言うなら、たぶんネコが見ているものをデコードする方がヒトが見ているものをデコードするより簡単。ネコたちはどんな夢を見ているのか・・・気になる。


 やっていることは非常に硬いのだけど、いろいろ妄想が膨らませられる面白い論文だと思った。