「I Have A Dream」から「Yes, We Can」へ


 大統領選が終わった。


 選挙の経過を伝えるニュースを見ていたら、太平洋沿岸州での投票が締め切られる午後8時(現地時間)に向けてカウントダウンが始まった。アナウンサーが「私達はあと少しで歴史的な瞬間を迎えることになるかもしれません」と言い、投票が締め切られた。締め切り後ほぼ即座にバラク・オバマ当選の画面が現れた。


 歴史に残る夜なんだろうな、と思う。初のアフリカン・アメリカンの黒人大統領。別にこれで人種差別の問題が解決されたわけではないし、選挙期間中にはまだ差別感情は厳然と存在すると思わされるエピソードがたびたび報道されてきた。それでも、今日の結果はアメリカが人種の壁を超える上での一つの象徴的な出来事ではあると思う。


 かつて「I Have A Dream.」という有名なスピーチがあった。今日、オバマが当選後に行ったスピーチの決め文句は「Yes, We Can.」だった。アメリカは変わることが出来る、と。スピーチの中でオバマは今日投票を行ったある市民の話をした。彼女は106歳の黒人女性で、人生のある時期までは黒人であり女性であるという2つの理由で選挙に行くことが出来なかった。彼女はアメリカが不況を乗り越え、戦争を乗り越え、月に降り立ち、その科学と想像力で世界中を結んだことを知っている。彼女は今日、その指で画面に触ることで投票を行った。良い時期も悪い時期もあった中で、彼女はアメリカがいかに変わることが出来る国かということを知っている。もし自分の娘が幸運にも彼女と同じぐらい長生きすることが出来たなら、娘はどのように変わり、どのように進歩したアメリカを見るだろうか? その問いに答える機会の一つとして、今日この瞬間がある、と。


 アメリカの現状は、厳しい。対外的には(共和党政権が始めた)2つの戦争を抱え、国内を見てもその経済はこれまた歴史に残りそうなひどい状況。スピーチ後に声援に応えるオバマの表情は少し憂いを含んでいるようにも見えたけれど、それはこの重圧を考えてのことだろうか。でも今日の選挙で民主党は議会での議席数も伸ばしたようだし、動きやすい状況ではあるはず。「Yes, we can.」と百年を語ったその勢いで、苦境を乗り越えていってほしいと思う。

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 個人的に言うなら、今回の選挙は他人事でもあり(選挙権がない。)、利害関係者でもある(高い税金を払っている&今の仕事のスポンサーはアメリカ政府)。職場の同僚が選挙過程に一喜一憂するのをこの数ヶ月間少し離れたところから見ていて、その立場のまま今の感想を言うとするなら、面白い時代に面白い場所にいるよな、と思う。先のことは判らないけれど面白いのは確かだ。