Kalanit Grill-Spector

StanfordからKalanit Grill-Spectorさんが来たのでトークを聞きに行く。

http://www-psych.stanford.edu/~kalanit/kalanit2.jpg

内容的には主にFFA*1に関するトピック2つ。


1. FFAおよびPPAの経験(年齢)依存性

 年齢層を分けて(7〜12歳、13〜15歳、大人、だったかな?)fMRIをとった結果、FFAのサイズ(体積)は加齢とともに大きくなっていた、という話。同様の結果はPPA*2にも見られたが、LOC*3には見られなかった。また、年齢を考慮せずに各カテゴリーにおける弁別課題の成績を調べた結果、体積と成績には正の相関が見られた。これらのことから、FFAとPPAは少なくとも7歳以降も(おそらく経験依存で)成長し、LOCは7歳以前に既に成熟しているのだ、というストーリー。


突っ込み1
 子どもの脳はanatomicalに小さいんじゃないの?
答え
 fusiform gyrus自体の体積を比べてみるとむしろ子どものほうが大きい(ただし有意差なし)。

突っ込み2
 子どもは大人ほどはじっとしてないから、p値で切って大きさ確定してるんだしデータがnoisyだから小さく見えるだけでは?
答え
 子どもの方が動きが大きいのは確か。でも子どもと大人で同じぐらいの動きをしている被験者だけ取り出してみて(つまりすごく動いた子どもとすごくじっとしていた大人のデータを排除して)比べても結果は変わらなかった。


 うーん・・・まあストーリーは面白いのだけど、p値で切って、しかも他のカテゴリーの刺激との比較(顔>物とか)によって決定される「体積」について、その大きさを云々するのはどこまで信用できるのだろう?という気はする(でも微妙に専門外なのでそういうものなのかも)。さらに後半の話↓と合わせるとますますよく判らない。
 同僚の一人は、子どもと大人では課題に対する注意の向け具合も違うだろうから、その辺の影響も無視できないのでは、と後で突っ込んでいた。


2. 高解像度fMRIによるFFAの検証

 1x1x1mmの高解像度でFFAを見てみたら、FFAの中には顔だけでなくほかのものに対して反応する領域がパッチ状に見られた、という話。

 これは既に論文になっている↓。

High-resolution imaging reveals highly selective nonface clusters in the fusiform face area.
Nat Neurosci. 2006 Sep;9(9):1177-85.

 とその修正版corrigendum 


 この話をめぐってはKanwisherさんと大喧嘩したらしい(pooneilさんとかvikingさんのところが詳しい)。あんまりその辺の経緯を知らなかったので漫然と聞いていたのだけど、彼女の現在の主張としては

  • FFAにとって顔が特別なのは認める(修正版)。
  • でもheterogeneousにパッチ状の領域があるのはたぶん本当。

  (修正版のFig. 1bでもちょっとanimalでd'の大きいのがあるよね、と)


ということらしい。


 正直なところオリジナルの論文に比べるとだいぶ後退した感じはする。でも技術としては面白いと思う。今後は「顔」の識別(男性とか女性とか人種とか)がどうなっているのかも見てみたいとのこと。


 経緯を知って思ったのは、よくこの時期に招待したな&Kalanitさんもよく来たな、ということ。いやこの時期だからこそ積極的に説明して回る必要があるのかな。トークとしては(喧嘩の部分を除いては)とても判りやすかった。

*1:fusiform face area、顔に対して反応する細胞が集まっているとされる領野

*2:parahippocampal place area、場所とか景色に反応する細胞が集まっているとされる領野

*3:lateral occipitotemporal cortex、物に反応する細胞が集まっているとされる領野