植物状態と診断された患者にも意識はある?

Science誌上で論争が。


去年の9月に出たこの論文(brevia)↓に対し、
Detecting Awareness in the Vegetative State
Adrian M. Owen, Martin R. Coleman, Melanie Boly, Matthew H. Davis, Steven Laureys, John D. Pickard
Science 8 September 2006:Vol. 313. no. 5792, p. 1402


今週号のScienceで、コメント(反論)2つ:

Comment on "Detecting Awareness in the Vegetative State"
Daniel L. Greenberg

Comment on "Detecting Awareness in the Vegetative State"
Parashkev Nachev and Masud Husain


とそれに対する著者からの再反論。
Response to Comments on "Detecting Awareness in the Vegetative State"
Adrian M. Owen, Martin R. Coleman, Melanie Boly, Matthew H. Davis, Steven Laureys, Dietsje Jolles, John D. Pickard


 オリジナルの話のおさらい。植物状態になった患者さんに「テニスをしているところを想像してください」とか「あなたの家を歩き回っているところを想像してください」と話しかけ、その時の脳活動をfMRIで記録。そうすると内容に応じてそれぞれ別の領野(テニスならSMA、家を歩き回るならPMC、PPC、PPA)が反応していて、その反応パターンは健常者で同様のこと(○○を想像してくださいと告げてfMRI。)をやった場合と同じだった、と。
 これらの結果は、少なくともこの患者さんの場合、植物状態においても外界の状況を判断し、それに対して反応する「意識」があるという強い証拠だ、という話でした。
shoukou5さん、shuzoさん、認知科学徒さんが詳しい。)


 今週のScienceではこれに対し2グループからの反論が載っていて、要は「imagine playing tennis」とか言ったら「tennis」という聴覚刺激に誘発されて automatic にそういう反応が起こるだけで、少なくともこの結果だけから(能動的な)意識があるなんて結論は導き出せないのでは、という話。


 著者Owenさんのグループからの再反論としては、確かに「tennis」という言葉を聞くことによって(必ずしも意識に上らなくても)automatic な反応が起きることはある。でもそういうのは通常数秒しか続かない。一方で今回の実験の場合、指示を与えてから30秒ほど活動が続き、しかもその活動は、想像するのを止めてくださいという意味をもつ別の刺激を提示するまで続いた、と。こんなことが automatic に起こるという話は聞いたことがないので、彼らの反論には意味がない、と。


 ここから個人的な感想。ここまでの経緯を見る限り、Owenさんの方に分があると思う。強いて言えば植物状態においては健常者では起きないような automatic で継続的な反応が起こる、という可能性は否定し切れていないのかな、とは思うけど。

 論争を解決するのに一番良い方法は、このような受動的なタスクではなく、能動的な反応が必要なタスクが出来るかどうかを見ることだと思う。つまりたとえば「今からする質問に対する答えがYesならテニスをしている場面を想像してください、Noなら家を歩き回っている場面を想像してください」とか。
 Realtime fMRIを使って単純なピンポンゲーム(Brain Pong)が出来たなんて話もあるのだし、アルファベットの選択を視覚+カーソルあるいは聴覚でフィードバックしながらやれば会話だって出来る可能性がある。もちろんトレーニングが必要だったり壁はいくつかあるだろうけど、出来た場合の患者さんのQOLのあまりの違いを考えると、やってみる価値はあると思う。もうやっているのかな。


 サイエンスというよりは応用に近いか。とても素晴らしい研究だと思う。