SFNのトークなど


 ミーティングルームに今年の北米神経科学学会*1のプログラムがあったのでちょっと見てみた。


 今年の特別レクチャーの目玉は Jeff Hawkins さんらしい。Palm Computing の創始者で、それで稼いだお金で私設の神経科学研究所Redwood Neuroscience Institute)を創設して自らそこの所長になったりと、なかなか楽しい人(RNIは今は UC Berkeley の一部門になっている)。彼は神経科学者なのか?というとそうでもないように思うのだけど、一昨年の同じ枠のレクチャーでしゃべったのはダライ・ラマ14世だったりするので、このぐらいの距離感は問題ないのだろう。


 過去のトークを見つけた。
 


 正直なところこの人の話*2はどう評価して良いのか判らない。ところどころ面白いと思うところはある(ドアノブを変化させる話*3とか、人間的な知性の方が感情や何やらより解明は簡単なはず*4だとか。)のだけど、具体的な機能にあてはめて考えるとあまり何も言っていないような気がしてくる。予測が大事、というのはまあそうなのかも知れないけど、それでたとえば具体的な学習則なり普遍表現の獲得なんかが説明できたことになるのだろうか? この人が目指しているような、何か実際に動くものを作ろうと思ったら、もうちょっと話を詰めないといけないと思うのだけど・・・。上のトークから既に4年経っているけど、何か成果は聞けるかな?


 蛍光顕微鏡の Svoboda さんとか connectome の Seung さんとか普通に楽しみ。日本からも大御所中西先生が。Gazzaniga さんもミーハーとしては外せないトーク


 特別レクチャーの中でもっとも「なんでやねん」度が高いのが Newt Gingrich さん。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/SpeakerGingrich.jpg


 共和党の政治家で元下院議長。来年の大統領選にも出るかも、でもやっぱり出ないかも、という人らしい。何にせよ、神経科学と全然関係ない・・・。でも科学予算についての話をしてくれるようなので、ある意味ではもっとも重要なトークなのかもしれない。


 しかしこの人一応 Ph. D (近代ヨーロッパ史)なのにパンフレットには記載なし。なぜ?
 この辺の、政治家の上の方の人が普通に博士というのがアメリカっぽい。

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 今年はポスター発表をします。ご縁がありましたらよろしくお願いします。


*1:世界中から3万人以上の神経科学者が集まる、学会というか年に一度のお祭りのようなもの。今年は11月にカリフォルニア州サンディエゴで開かれる。

*2:より詳しくは"On Intelligence"(邦訳版『考える脳 考えるコンピューター』)参照。

*3:脳は常に予測を行っている、という説。人は、たとえばいつも使っている自宅のドアノブが微妙に変えられている(位置が違う、大きさが違う、材質が違う)と即座にそれに気づくことが出来る。でもそれはドアノブに触るときにはこのタイミングでこういう感覚入力が入ってくるはずという予測があり、そこからのエラーを検出するから気づくのであって、人工知能の人がやるように(無限の組み合わせが考えられる)「ドアノブの属性データベース」と照合して気づいたりするのではない、という話。

*4:感情やら細かい運動制御などは生物が長時間かけて進化させてきたもので、実装に専用の器官や神経回路が絡んできて無茶苦茶ややこしい。それに比べると人間的な知性をつかさどる新皮質なんてのは生物史上ごく最近になって出来たもので、やたらでかいだけで構造は単純だし均一な組織が広がっているだけなので動作原理が一つわかればすぐに全部解明されるよ、という希望的観測。