徴兵制雑感


 徴兵制が話題らしいので思ったことを書いてみる / メモ。


 ドイツ出身の学生と徴兵制について話す機会があった。ドイツには今も徴兵制があり、彼はすでに兵役を済ませてアメリカに来ている。実際やってみて、徴兵制って正直どうなの? と聞くと、まあ問題はあるけど良い制度だと思う、とのこと。理由として:


(1)ある種の社会的な equalizer として役立っている。

 ドイツでは小学校4年生(10歳)の時点で大学進学組、職業訓練組等に進路が分かれるので、そこで文化・生活様式の断絶が起きてしまう。青年期にもう一度同等の立場で召集されることで、(それがなければなしえなかったであろう)異なる階層間の対等なコミュニケーションが実現されている。


(2)戦争を自分や家族に関連する問題と感じることで戦争忌避感が生まれる。

 彼曰く、とくにアメリカ人を見ていて思うのは、彼らがよく戦争をするのは要するに自分の問題だと思ってないからだと。戦地で死ぬのは主に貧民層の誰かであり、声の大きい有権者やその身近な人達ではない。今回の戦争でもニュースで叩かれるのは主にどれだけの税金が無駄に使われているかということであり、どれだけの数の父や息子や友人・恋人の命が失われたかではない。ドイツではこんなことは考えられない、と。



以下、思ったこと:

  • 宮崎県知事が言うような、「道徳」とか「倫理観」の育成みたいなことを全く言わないのが面白いと思った。そもそも「軍隊で心身を鍛えたら立派な人間になる」というのは「勉強して学をつけたら立派な人間になる」と同程度かそれ以上にうさんくさい気がする。もしかしてそういうこと言っているの日本だけ? 何か統計があったりするのだろうか。
  • 階層化社会、また階層間のコミュニケーション不全は日本も同様に抱える状況のように思う(たとえば経済的に余裕のあるインテリの何割が子どもを公立の小中学校に行かせるか、等)。(a)階層化は不可避かつ(b)階層間のコミュニケーションは必要、ということなら、理由(1)は日本にも当てはまるかも。ただ兵役である必要はない。
  • 徴兵制を保持している国にはそれぞれの事情があるにせよ、基本的には時代錯誤の制度だと思う。日本が(兵役でなくても)強制的に労働を課するような方向に進んでほしくはないし、今回の宮崎県知事の発言はそもそも理由付けからして納得できない。

おまけ:
徴兵制マップ(Wikipediaより)
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/ea/Conscription_map_of_the_world.svg/500px-Conscription_map_of_the_world.svg.png
赤が徴兵制のある国。青がなし。オレンジはもうすぐ廃止。緑は軍隊なし。

こうやって見ると徴兵制がある国は結構多いな・・・。21世紀初頭においては、徴兵制がある社会の方がヒトの作る社会としてはより普遍的である、とは言えるのかも。