イオン供給によるニューロン刺激


 MIT から Luke Theogarajan さんが来たのでトークを聞きに行く。網膜埋め込み型の人工視覚デバイスを開発している人。前半はワイヤレスで電力と信号を供給できる網膜埋め込みデバイス開発の話で、後半は(電気刺激ではなく)イオン供給によって神経細胞を刺激する仕組みを開発しよう、という話。


 トークのビデオを見つけた。聞いた話はほぼこれと同じもの。


Electronic and Ionic Neural Interfaces for Neural Prostheses
Luke Theogarajan, Massachusetts Institute of Technology


 話の肝は、(従来法である)細胞外電極からの電気刺激で神経興奮を起こすという方法は効率が悪いので、もっと生物が自然に行っているプロセスに近いやり方でアプローチしようという点。といっても神経伝達物質を放出するとかいうのはハードルが高いので、とりあえずまだ単純そうなところで細胞外のイオン濃度を変化させることで興奮を誘発できないかと。で単離網膜による in vitro の実験で水平細胞層付近(細胞外)の K+ イオン濃度(普段は5mMぐらい)を上げてやったら(〜10mM)ちゃんと神経節細胞層でのスパイクが確認された、しかも PSF*1 は光刺激と同程度に小さくすることが出来た(〜200μmぐらい)ので、これは有望なんではないかと。


 問題は(1) K+ イオンを貯めて、(2) 外部からの信号でそれを放出するような機構をどうやって作るか。とりあえず第一段階として K+ イオンを選択的に透過する高分子膜で出来た粒子を作って、選択的に K+ イオンを取り込むところまでは出来ました、と。あとは貯めておいたイオンを先に作った網膜埋め込みデバイスからの信号で随時放出するような機構を作れれば良いですね(まだ出来てないけど)、と。


 正直なところどのぐらい実現可能性があるのか、他のやり方と比べて実用性が高いのか、等は今回の話からは判断できなかった。でも電極による電気刺激や遺伝子導入による光受容タンパク質発現等以外にも様々な可能性があるという点はとても面白いと思った。


 この人はもともと Intel にいた人らしく、上述の網膜埋め込みデバイス用の微小チップは自分で開発したらしい。更に高分子膜も自分で設計して合成してしまった(初めは生化学屋さんに頼んだんだけどあんまりちゃんと仕事してくれないので自分でやった)とか。こんな人もいるのか・・・。

*1:Point Spread Function