「面白いからです」とNicolelisさんは言った。


 Miguel Nicolelis (@Duke University) さんのトークがあるというので聞きに行く。脳・マシン・インターフェース*1の大御所。内容はあまり目新しくなかったので雰囲気のメモ。


http://www.bbc.co.uk/radio4/science/media/Nicolelis1.jpg
(Nicolelis さんとロボットアーム。BBCページより)


 運動領野にある多数(〜数百)の神経細胞の活動を同時記録することで、運動の意図をリアルタイムに読み取り、それをロボットアームやコンピュータなどに伝えるという研究をしている。病気や怪我などで麻痺・四肢を損傷した患者さんのQOLを回復する可能性のある、とても重要な研究。また運動学習中の神経活動(の変化)を継続的に記録することで、学習に関連した可塑的な変化がどのように起こるかを調べることも出来る。このことなどから、基礎神経科学的にも貴重な知見が得られる研究でもある。


 あまりにも大御所過ぎてトークの内容はだいたいどこかで聞いたか読んだかしたものだったので、いまいち目新しさに欠けたのが残念(日本語で読める関連の話題/資料としては pooneilさん、Shuzoさんのエントリが詳しい)。でもその人となりを少し垣間見れたのは良かった。ブラジル出身で、今ではブラジルの教育にも多大な貢献をしているらしい。ホスト役の人(この人もブラジル人)が何度も「fellow Brazilian」「fellow Brazilian」と誇らしげに言っていたのが印象に残った。


 途中で、ちょっと前に話題になった ATR の川人研究室との共同研究の話になった。Nicolelis ラボのサル脳の信号をネット経由で日本に送って ATR の歩行ロボットを動かすというやつ。


世界初、サルの大脳皮質の活動により制御されるヒューマノイドロボットの二足歩行
科学技術振興機構報 第461号


 2000年の Wessberg et al. の論文のときも MIT のロボットとサル脳をインターネットでつないで動かしたとかいう話があったけど、正直なところどうしてこういうことをやりたいのかよく判らなかった。ロボットにつなげること自体はメカニカルな特性も含めて学習できるかどうかを実機で調べるという意味合いがあるのだろうけど、ネット経由で遠隔実験をするなんてほとんどどうでも良いことのように思える。今回の ATR の場合は日本からロボットを持ってくるのも大変だからということでこういう形になったのかな? とも思ったのだけど、やはり同じような疑問を持つ人は多いらしい。彼いわく、


 「この話をするとですね、何故こういうことをしたのかとよく聞かれます。この実験にどんな意味があるんだ? と。何故やったかというとですね、それはもちろんやったら面白いからです。科学って究極的にはそういうものですよね」


ご本人にここまで開き直った発言をされると、逆にいやもっと意味はあるでしょうと言いたくなってしまう。どの程度本心なのかはよく判らないけど、でも個人的にはちょっとすっきりした。*2


 

*1:人によって、あるいは内容によって(?) BCI (brain computer interface) と言ったり BMI (brain machine interface) と言ったりする。Nicolelis さんは一貫して BMI。でもこれだと肥満度の指標とかぶる。

*2:西海岸にいたらぶっころがされそうな発言ではあるけれど。