ゲシュタルト崩壊雑記


 ゲシュタルト崩壊をネタにして何か実験できたら面白いよね、と同僚に雑談を振ろうとしたら予想外に苦労した。まずゲシュタルト崩壊を英語でなんて言うのか判らない。ドイツ語(Zusammenbruch der Gestalt)はあるけど英語は? breakdown? collapse?


 何とか概念を把握してもらったのは良いのだけど、そんなこと経験したことがないし、聞いたこともないと言われる。確かにアルファベットは単純であまりゲシュタルト崩壊しないのかも。台湾系の院生だけが実感として理解してくれた。でも今日初めて知った現象だという。あんまり有名な概念ではないのかもしれない。実験できたら漢字圏の科学者の独壇場かも。

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 Wikipedia によると

ゲシュタルト崩壊 - Wikipedia

ゲシュタルト崩壊とは心理学における概念の一つで、全体性を持ったまとまりのある構造(ドイツ語でゲシュタルトGestalt 形態)が、なにかをきっかけとして関連性に疑念を抱く状態となり、個々の構成部分のみに切り離して認識しなおそうとする事である。


とある。で、その続きが

例えば、生来なにも疑わずに受け入れて育ってきた環境や知識に対して、それと宗教的や制度的に全く反する世界を体験した際、それまで持っていた自我、アイデンティティーの存在意義について、自らが立っていた土台そのものが崩される思いをする現象である。


同様な現象は認知心理学にも『文字のゲシュタルト崩壊』という現象として見られる。・・・


とあるのだけど、この「例えば」の段落の説明を読むと、文字に関する現象は全然それと「同様な現象」に思えない。どこでこれらを同じようなものとみなすようになったのだろう。文字の方はどちらかというと視覚系固有というか、視覚的注意とか図地分割とかそういう文脈で語れるものではないのだろうか。(聴覚や体性感覚でも同様の現象はあるのだろうか?)

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 同じ視覚入力でも、「もの」はあまりゲシュタルト崩壊しない(ように思う)。目の前のマウスが何だかよく判らないものに見えてきたりはしない。天敵とにらみ合っていて天敵がゲシュタルト崩壊しだしたらかなりまずい。もし文字特有だとすると、それは文字のもつ何らかの(”不自然な”)画像統計上の性質がとくに崩壊(「関連性に疑念を抱く状態」)を誘発させやすいということがあるのだろうか。たとえば比較的高コントラストである、高周波数成分が多い、非 1/f 的である、平面的である、輝度勾配を含まない、等。

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 うまくコントロールすれば両眼競合みたいな感じで面白いパラダイムが作れるのではないかと思うのだけど、とにかく基礎文献があまり見つからないのでちょっと保留。しかしこの実験はヒトでしか出来ないというところが問題だ。いや動物で両眼競合の実験もあるぐらいだから何とか考えれば出来るのだろうか。眼球運動のパターンに違いが現れたりするだろうか。

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同じことを考えている方が。


ゲシュタルト崩壊をイメージングしたい。 − kitanishi さん


 やっぱりヒトでやるとしたらfMRIしかないか・・・でもその時空間解像度では何も見えないという結果になってもあまり驚きはしない(逆に電気生理で何も出なかったらかなりびっくりだ)。もう結果が出ているのなら見てみたいけれど。


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 最近ゲシュタルト崩壊したもの↓。

脳内メーカーで画像化された potasiumch の脳内)